ある若者

或る若者は大型の遠洋かつお漁船に乗っていました。三陸沖のカツオ漁も終わり宮城県気仙沼港にカツオ水揚げの為に入港しました。カツオを求めて海と空ばかりの海原を何カ月もの間、陸から離れて男ばかりの生活、陸で生活する方にはとっても想像も付かない味気ない男ばかりの船の生活・・・
ですから港に入る時は、其れは其れは嬉しさと喜びが込み上げて来ます。ましてや20代の若者にとっては溢れんばかりの元気が身体に込み上げて来ます。特に船内生活は、女の毛も有りませんから女性と共に過ごせる。身近な酒場かバー或いはキャバレーに繰り出します。其の若者も例に漏れず。或る行きつけの小奇麗な屋台店に、繰り出しました・・・
其の屋台店には、髪の長い切れ長の、笑顔が素敵な女性を目当てに入港する度に、あしげなく通っていたのです。其の若者は本来では、アルコールと名の付く物は殆ど飲めないのですが、女性に気にいって頂きたい為に、飲めぬ酒をコップに注いでは、女性に解らないように、飲んだように捨てていたのです・・・
然し其の日は酒を何杯か飲み、長い時間其の屋台店にいると、女性に嫌われると思い、屋台店を早めに出ておぼつかない足取りで船に帰ろうとしたのです。然し其の若者はアルコールを飲めない理由の一つに、飲むと直ぐ何処でも眠って仕舞うと言う悪い癖が有りました。船に帰る途中、其の若者はいても立っても居られない程の眠気におちいり或る場所で眠って仕舞ったのです・・・
其の若者が眠って仕舞った場所は、何処あろう電車の線路の枕木でした・・・日も暮れてスッカリ闇が覆う頃に、其の線路の近くを通った方が、線路の枕木で人が倒れているのか?自殺を試みているのか?解らぬまま、近くの交番に届けたのです。交番から駆け付けた警官は線路に近付き、若者の身体を揺さぶり又、大声で若者を眠りから目覚めさせました・・・
若者は駐在所に連れられ、何の為に電車の線路に眠っていたのか?こっぴどく説教されたのです。今回は許してあげるが二度とこの様な事が無いように始末書を書かされ、船の偉い方にも連絡はしないからと、私の驚きようを見て許して下さった様です。そして私は心の底から、酒を飲まないと誓ったのですが・・・
其れから何ヶ月後、船が港に入港して、其の屋台店に行った時にはやはり酒を注がれ、其の女性に気にいって頂きたいと思う心が、二度と酒は飲まないと言う事を、心に誓ったのに、女性に気にいって頂きたいと思う心の方が勝って、酒を少し飲んで仕舞いました。少しの酒は、警察官に言われた事と、女性に気にいって貰いたいと言う気持ちの心が揺れたのかも?知れません・・・
さて此の若者の正体は一体誰でしょうか?人は酒も飲めぬ者が女性に惚れるなんて「シャラクセイー」と言われたとか?・・・其れではまた・・・

ジンベイサメ"
着物のじんべえの柄から来ていると言われていますが、然し私は年老いたカツオ船の船頭から、聞いた話に依れば、昔 或るカツオ船の船頭の名前が甚平(ジンベイ)と言う名前で、カツオを求めて幾日も操業していました。然しカツオの群れと殆ど出くわす事が無く、カツオが釣れ
なければ、乗組員は生活がかかっていますから、甚平船頭はホトホト困っていました。そんな或日一匹の大きなサメが船に近寄って来ました。其のサメに向かって甚平船頭は言いました。
「サメよカツオの群れを連れて来たなら、お前の言うことを何でも聞くよ」と言いました。すると次の朝、そのサメは大きなカツオの群れを連れて来たのです。甚平船頭始め乗組員は満船に成程のカツオ釣り上げ、港に入り水揚げは。今迄に無かった水揚漁と金額でした。尚 次の航海操業の時に、又そのサメに出くわしたので。サメに向かって甚平船頭は「約束だから、なんでも言う事を聞くから言ってくれ」と言いました。するとサメは大きな口を開けたのです。
甚平船頭は咄嗟に思い、サメの大きな口に体ごと突入したのです。其れからそのサメを「甚平サメ」と言われるように成ったとか?甚平サメが居る所には、殆どカツオの群れがいます。其の事を「サメ付き」と言っています。此の話は、私が聞いた話を元に作ったので、真意は定かでは有りません・・・